17 出発の日

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台所のテレビには、衛星画像の日本列島と、その南岸に巣くう大きな渦が映し出されていた。 アナウンサーが緊迫した面持ちで、発達した超大型の台風が紀伊半島沖にあり、明日の昼過ぎには関東を直撃する可能性があると告げている。 留美は、もう心を決めていた。 「お父さん、明日の朝帰るから、駅まで送ってくれない?」 「あれまあ、台風が来るってのに」 母さんが夕食の皿を洗いながら、口をとがらす。 「わざわざこんな日に帰らなくてもいいじゃない。天気が落ち着いてからにすれば」 「どうしても帰りたいんだ」 「言うこと聞きなさいよ。それとも、明日帰らなきゃいけない理由でもあるの」 「うん」 「急に帰ってきたかと思えば、また急に戻るって言って。あんた思いつきで行動してるんじゃないでしょうね。いいかげん何があったか話しなさいよ」 「それは、また今度ちゃんと話す」 「全く心配ばかりかけて、この子は。本当にどうしようもない。とにかく明日は危険だから帰さないからね」 「じゃあ、歩いて駅まで行く」 母さんは、腰に手を当てて仁王立ちのポーズを取った。 険しい顔で何か言おうとして、ふっと力を抜き、留美に背を向けた。 「もう、勝手にしなさい」 留美が一度決めると人の言う事を全く聞かない事は、家族みんなが知っている。 昔は母さんと激しく言い争う事もあったが、今はもう諦めているようだ。 「何時に出る」 二人のやり取りをよそにテレビを見ていた父さんが、留美を見ずに尋ねる。 「始発の電車に乗りたいの」 「じゃあ、今日は早く寝なくちゃな」 父さんは席から立ち上がると、部屋を出ていった。
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