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深夜。
壁掛け時計のの、チクタクという音だけが聞こえている。
家族が寝静まり、静寂に包まれたリビングのソファーに腰掛け、クッションを胸に抱きながら、留美はこれまで起きた出来事の整理を試みていた。
まず、鈴木健太がいなくなった。
でも、『もともといない事』になっていた。
私の記憶には残っているのに、他の人は誰も知らないと言う。
その前日に、私は海で何者かの強烈な視線を受けて、倒れてしまった。
何か関係があるのだろうか?
オーナーの話では、倒れていたのは一瞬だったらしいし、目が覚めた時も、特に違和感は感じなかった。
でも、明らかに、その日から何かがずれ始めたのだ。
まるで砂山がゆっくりと崩れ始めるように。
アキちゃん、浩太、そして優人。
次々と自分の周りから消えていった。
そして勤めていた会社までも。
記憶障害なんかじゃない。
確かに全て存在していたのだ。
優人は消える前に、全ての記憶は曖昧だ、と言っていたが、今ではあらゆる記憶をリアルに思い出す事ができる。
これは現実に起きたことなんだ。
でも、全て失ったと思ったのに、両親とこの実家だけは残っていた。
なぜだろう?
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