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割れてところどころ剥がれ落ちた瓦。
長年の風雨にさらされ痛みきってカビだらけの外壁。
ひび割れて白く霞がかった引き戸。
そのどれをとっても
どう考えてもここに人が住んでいるなどと微塵も考えることはできない。
僕はあの男に弄ばれていたのだろうか。
ただただ意味もなく目的もなく
目に付いた高校生に話しかけて意味のない紙切れを渡して
貴重な休日に徒労とも呼べる散策をさせるためだけに僕にこの紙を渡したのだろうか。
よく考えたら。
いやよく考えなくても
あんなわけのわからない男の言うことを聞いて
わざわざ休日に街をうろつくなんてことを普通の人間がするわけがない。
だからきっと僕は普通ではなかったのだろう。
あの日からずっと普通に過ごしてきたつもりだったのに
こんなことに引っかかるということは
僕にはもう普通でいることすら特別なことになってしまっていたのだ。
だからこそこんなチンケな嘘に騙される。
そんなチンケな嘘にすらすがってみたくなってしまう。
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