第1章

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「・・・・・・帰るか」 今日の自分の行動と紙を受け取ってしまった昨日の自分の行動を戒めながら元来た道を引き返す。 そんな時ふっと、春風に乗って優しげな音色が耳をかすめた。 その音色はまるで初めからそこにあったように、優しく世界を包み込んでいく。 桜の花びらが散る。 風に舞う。 地面に落ちる。 そんな当たり前の風景が 四月になって、高校に通い始めて、何度も何度も見てきたはずの光景が、なぜか今は新鮮に感じる。 この音はいったいどこから聞こえてくるのだろう。 そんな純粋な好奇心が僕の心を埋め尽くしていく。 その音は目の前の寂れた民家から流れ出ていた。 好奇心の赴くままにひび割れ白く霞んだガラス越しに中の様子を伺ってみる。 さっきまで寂れ廃れ不気味な雰囲気を醸し出していた廃屋が、今ではなぜか神聖な社のように見える。 僕はそのガタだらけの扉に手をかけると、ゆっくりと横に滑らした。
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