第1章

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扉は思っていたよりもなめらかに滑り僕を招き入れてくれた。 家の中はその外見ほど荒れ果ててはおらず。 むしろアンティーク然とした雰囲気さえ醸し出している。 所々に無造作にけれど丁寧に置かれた小物や家具などが、この家に人が暮らしていることを静かに語りかけてくる。 音色はそんな家の奥から響いてきていた。 土間のようになっている場所を抜け。 一歩段差を上り前へと進む。 そして音色の聞こえる部屋の前。 その部屋を閉ざす扉に手をかけたところで、僕は一端手を止めた。 不安でも期待でもない。 言葉にできない感情に自然と手が震えた。 僕は一度だけ深く息を吐き出すと、扉に掛ける手に力を込める。 扉は外とは違い立て付けが悪いのか そんな僕の侵入を拒むように腕にわずかな引っかかりを伝えてくる。 僕はより一層の力を込めて扉を引く。
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