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「やあ、アリス。待ちわびたよ」
扉をあけた僕に音色が話しかけてきた。
いや違う。
音色は今も僕の耳に聞こえている。
話しかけてきたのは音色じゃない。
畳が敷き詰められた部屋。
窓もなく、家具もない。
始めに入った部屋とは真逆の空っぽの部屋。
そんな部屋の中心に座り込むようにして居座る少女。
その少女から言葉は発せられていた。
「ようこそ。不思議の国へ」
腰まで伸びそれでもなお止まることを知らず、畳の上を流れる艶やかな黒髪。
まるで夜の闇をそのまますくい取って雫にしたような瞳。
闇夜に浮かぶ月のように白い肌。
それはもうまるで、この世のものとは思えない美しさだった。
少なくとも僕はこれ以上に美しいものを今まで見たことはない。
そう思ってしまうほどには美しかったのだ。
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