「別離(わかれ)」

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-別離(わかれ)- 「・・・・・・貴志。よく頑張ったね。すごく頑張ったね」 母はそう囁いた。その時、奇跡が起こった。 全く反応のなかった貴志の閉じた瞼から 『二粒の涙』が頬を流れ落ちていった。 (お父さん、お母さん、最後まで頑張りきれなくて) (ごめんなさい・・・・・・) 意識もなく、声に出来なくても きっと貴志は伝えたかった。 そのまま彼は帰らぬ人と なってしまった。 憧れ続けた騎手への道。 やがて夢は現実となり、貴志は騎手としてスタートを 切ったばかりだった。 しかし、突然起こった不慮の落馬事故。 意識不明の重篤状態を彷徨いながらも貴志は 必死に生きようとした。   疾病名 「脳挫傷」 しかも、脳の神経は断絶が激しく、医師の診断も 「悲観」であった。 彼の言葉が聞こえてくる・・・・・・。 (大藪教官) (同期の仲間。そして何よりも家族のように) (見守ってくれた古賀先生) (本当にありがとうございました) 彼の言葉が聞こえてくる・・・・・・。    稲妻のように 青春を駆け抜け そして儚く短い人生に幕を閉じた。  竹本貴志 享年20歳。 生涯戦績「15戦1勝」職業 競馬騎手。  JRAの記録として「1勝」の記録と共に 彼の名前が刻まれている。
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