「少年時代」

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-少年時代- 広島県安佐南。 山並みに囲まれた穏やかな環境で貴志は育った。 故郷という言葉が妙に似合っていて 山風がとても清々しい競馬とは無縁の町。 通い慣れた体育館までの道程。 植物が生い茂る獣道を一本抜いたススキ片手に まるで指揮者の真似をしながら学校へと向かうのが 日課であった。 貴志と2人の兄(長兄:潤史 次兄:久志)は 父(久男)の影響で 幼い頃からバレーボールクラブに所属していた。 週に2度の練習。 しかし、膝の青痣が真剣勝負の痕を物語っていた。 貴志は末男特有の控えめな性格でありながらも 臆する事を知らない一途な「負けず嫌い」だった。 男なら何事にも 体当りでぶつかってゆく・・・・・・ 子供乍らも父や兄達の背を見て貴志は育っていた。 「貴志ぃ!たいがいに、せにゃぁ!」 「体壊してしまうで」 まだまだ、成長していない身体を心配して 監督でもあった久男は笑いながらそう呟いた。 自分のふがいなさに体育館の裏で ひとり悔し涙を流している姿を父は見ていた。 決して親にも、弱みを見せない子だった。 「辛いやろ?もう、バレーやめ」 「やめんよ。絶対にバレーはやめんで」 貴志の闘争心を煽りながらも久男は判っていた。 こいつの負けず嫌いは芯が1本入っとる。 きっと社会で壁にぶち当たっても 乗り越える勇気を持っとる・・・・・・ だからこそ、貴志に対しては一目を置いていた。 敢えて辛い言葉をかけ続けた。 父の姿に貴志は「鬼」と思うどころか 「監督」としての割り切りができていた。 二人の間には親子の絆以上に 「恩師と教え子の法則」が出来上がっていた。
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