0人が本棚に入れています
本棚に追加
-少年時代-
広島県安佐南。
山並みに囲まれた穏やかな環境で貴志は育った。
故郷という言葉が妙に似合っていて
山風がとても清々しい競馬とは無縁の町。
通い慣れた体育館までの道程。
植物が生い茂る獣道を一本抜いたススキ片手に
まるで指揮者の真似をしながら学校へと向かうのが
日課であった。
貴志と2人の兄(長兄:潤史 次兄:久志)は
父(久男)の影響で
幼い頃からバレーボールクラブに所属していた。
週に2度の練習。
しかし、膝の青痣が真剣勝負の痕を物語っていた。
貴志は末男特有の控えめな性格でありながらも
臆する事を知らない一途な「負けず嫌い」だった。
男なら何事にも 体当りでぶつかってゆく・・・・・・
子供乍らも父や兄達の背を見て貴志は育っていた。
「貴志ぃ!たいがいに、せにゃぁ!」
「体壊してしまうで」
まだまだ、成長していない身体を心配して
監督でもあった久男は笑いながらそう呟いた。
自分のふがいなさに体育館の裏で
ひとり悔し涙を流している姿を父は見ていた。
決して親にも、弱みを見せない子だった。
「辛いやろ?もう、バレーやめ」
「やめんよ。絶対にバレーはやめんで」
貴志の闘争心を煽りながらも久男は判っていた。
こいつの負けず嫌いは芯が1本入っとる。
きっと社会で壁にぶち当たっても
乗り越える勇気を持っとる・・・・・・
だからこそ、貴志に対しては一目を置いていた。
敢えて辛い言葉をかけ続けた。
父の姿に貴志は「鬼」と思うどころか
「監督」としての割り切りができていた。
二人の間には親子の絆以上に
「恩師と教え子の法則」が出来上がっていた。
最初のコメントを投稿しよう!