第1章

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私たち4人は、結局 宿には泊まらずに夜中0時を回った頃に温泉宿を出た。 その4人の空間が苦しくて苦しくて、 息もまともに出来ないような息苦しさだった。 リューマと相川さんの絶望的な光景を見てしまってから 心が冷たくなって、 心臓が機能する事をやめてしまったかのように静かで リューマにいくら『愛してる』と言われても空々しくて、心に響いてこなかった。 高校生の頃からリューマ一筋で 専属ヘアメイクになる為に美容師になって 実績を積んで 夢を叶えて 結婚までして 幸せも束の間 こんな事になって……… 幸せなんて、結局こんなもの。 脆くてこんな簡単に壊れてしまう。 私きっともう、リューマとは無理。 距離を置く事以外の選択肢はない。 始終無言の車の中で 私とリューマは自宅マンションの前で降ろされた。 まだ夜中の2時半。 マンションのエントランスホールを抜けてエレベーターのボタンを押した。 後ろにリューマの気配を感じるけど、一切視線を向ける事はなく 視界に入れないようにした。 エレベーターに乗り込み 自宅前まできて鍵を開ける。 ドアノブに手をかけて引いて 真っ暗な部屋を目の前にして電気のスイッチを入れようとしたら 躊躇している自分がいた。 動悸がしてきて、息苦しくなる。 また、あのおぞましい光景が目の前に飛び込んでくるんじゃないかって 手指が小刻みに震えてくる。 私が電気をつけられずに佇んでいると リューマの手が伸びてきて 部屋は明るく灯された。 後ろに感じるリューマの微かな気配と熱。 私たちは室内へと入っていき、 私はゆっくりソファに腰を下ろした。 リューマも遠慮がちにL字ソファに腰を下ろした。 「………………」
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