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「リューマ」
私がリューマの名前を呼ぶと
リューマは小さくビクッと体を揺らした。
私はスマホを鞄から取りだしてタレント事務所からのメールを表示した。
そして契約内容が簡潔に書かれてある文面、そして契約するにあたっての流れ、交通案内などの詳細が記されてあるメールボックスを開いて
リューマに見せるように手渡した。
その時、ずっと背けていたリューマの顔が視界に入って
一瞬息を飲む。
リューマの綺麗な顔に痛々しいほどの深い陰りがあって、目が充血して潤んでいたから。
リューマ……… 泣いてた………?
その様子に軽い動揺を覚えたけど
瞬時、ニットシャツから覗くリューマの首筋のキスマークを見たら、
再びすーっと心が冷めた。
「これ、転送するから、面接、契約日を決めて事務所に行って?」
「………………」
「もう、リューマには何の選択肢もないの、分かるよね?
私は、違う店舗のGrosslyに指名客を誘導するから、ヨシと相川さんとも会わないようにする。
………いいよね?
あと、リューマのマネージャー管理は今後一切リューマ自身が管理して」
リューマは私のスマホを手にしたまま微動だにしない。
「ちなみに明日はGrossly本社でイベントの打ち合わせがあるからリューマだけで行って、そして近日中のスケジュールも把握しておいて。
私は一切関わらないから。」
私は冷たい声音でそう言い切ると小さく息をついた。
そして何も言葉を発しないリューマに、
承諾を得たと自分で解釈して
私は着替えてもう寝てしまおうと腰を上げた。
そしたら不意に手首を掴まれ、バランスを崩し、再びソファに沈んだ。
「ミユキ………。 オレこのままじゃ、仕事どころじゃない」
リューマから発せられた声は悲痛で苦しそうに掠れていた。
「そんな、大人気ない事言わないで」
私はそれには動じずに、静かにそう言った。
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