第1章

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「もしもし、ヨシ………? ゴメン朝早くから。 私の指名のお客様をJ店に移動させたいの。 朝出勤したらお客様の連絡先をメールしてもらえるかな。」 『了解。 ………ミユキも移動しちまうのか。 困ったな。』 ヨシの声は落胆していた。 「ゴメンね、迷惑かけて」 『それより、大丈夫なの、リューマとは?』 「う………ん。とりあえず距離置こうと思って、仕事は別で行動する事にした。 本当に、色々迷惑かけちゃってゴメン」 『………なんの、迷惑もかかってないよ』 ヨシの声が暗くて元気がない。 それもそうか。 あんな修羅場に遭遇したら気分悪いよね。 『仕事どころじゃないかと思って心配したけど大丈夫そうだな?』 「うん、大丈夫。仕事は仕事だもん。」 『あんまり、ムリすんなよ。』 「ありがとう。じゃあ、本社に寄って移転の件話しに行くから」 そう言って電話を切ろうとしたら 『ちょっと待って』と声がかかった。 『今日仕事終わったら会おう。 仕事の事でミユキが移転するなら調整しなきゃいけない事もあるし』 「う………ん。分かった。そしたら終わりそうな時間見計らってメールする」 『了解。オレもそうする』 そして通話を切った。 すでに出掛ける支度は済んでいて、 手元にあるコーヒーを飲み干そうとした。 「………ふぅん。 ミユキって切り替え早いね」 低音で皮肉っぽく響いた声にドキリとして 恐る恐る振り返ると シャワーを浴びていると思っていたリューマがいつの間にかすぐそこに立っていた。 スエットパンツだけの姿で、濡れた髪をバスタオルで覆っている。 寝不足で充血した目で、私を睨んでいた。 「結局、ヨシとは切れないのか。 どっちがひどい事してんだか。」 「ちが………仕事の話しで会うだけ。 責任転嫁しないでよ。」 リューマの鋭く冷たい声に一瞬狼狽える。 「分かんないだろ? ミユキはそうでもヨシは下心アリアリなんだよ。 オレと不仲になったミユキを落とそうと狙うのは当然だろ」 リューマが 怖い。 私を逆恨みしている。 瞳が 声が 氷水を浴びせられているかのように 冷たくて………。 また……… 涙が……… 「うっ………うっ」 「勘弁してよ。 泣きたいのはこっちなのに」 リューマは鼻で笑って吐き捨てるように言った。
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