「夢叶う時」

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- 夢叶う時 - 楽しくて 嬉しくて 喜ばしくて 痛くて 辛くて 哀しくて 感情というものをひとつひとつ噛みしめる。 今迄にはあり得なかった。 「何気ない時間」から 「研ぎ澄まされた瞬間」へ変わっていた。 懸命に己と向き合い、己を叱咤し、己を励ました。 夢を掴む為に。  時は流れ・・・・・・ 貴志は競争率600倍の難関を突破した。 合格。 「おめでとう・・・貴志」 同行した母の眼から喜涙が溢れ落ちた。 放課後の学校で吉報を待つ人がいた。 園田や仲間達、先生だった。皆から祝福された。 (愛美・・・?) 愛美がいなかった。 貴志は胸騒ぎがした。 (しまった・・・・・・3日前から顔を見ていない) 貴志は廊下を必死に走った。 何処にもいない。 (家か?) 愛美の家を訪ねてみたが まだ戻っていなかった。 (そうだ!) 貴志は「約束の桜木」へ走った。  思った通りだった。 桜木のベンチで愛美は座っていた。 「まなみ!まなみぃ!!」 貴志は必死に走った。 貴志の声が聞こえた筈なのに 愛美は顔を上げようとしなかった。 息を切らし、両手で膝を抱えながら 「愛美。合格したよ」 愛美は下を向きながら 淋しそうに声を出した。 「そんなの当たり前だよ。わかってたもん」 「愛美?怒ってるの?」 「・・・・・・」 「愛美ってば!?」 突然、貴志に抱きついた。 「おめでとう。貴志」 愛美の笑顔が眩しかった。 その眼からは涙が溢れそうだった。 愛美が祝福のキス。 「おう!やったぞ!俺っ」 ふたりだけの何気ない時間が戻っていた。 寒風が丘の芝を揺らしていた。 夕暮れの中 重なったシルエットと長く延びた影が印象的だった。
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