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- 絆(きずな) -
日は既に上がっているのに空気が澄んでいるからだろうか。
生き物の傍では吐息で白くなり
オーラの様な靄(もや)が纏う。
軽速歩、ツーポイント騎乗と呼ばれる騎乗基礎が行われていた。
まだまだ幼い顔付きの面々が揃う中、貴志だけが大人びていた。
教官の藪が云った。
「竹本。お前、体重管理せんとあかんぞ!」
教官の云う通り、貴志には明らかなハンデがあった。
中学時代に培った筋肉体質 そして身長だった。
バレーボールを続けていた「代償」は解消していなかったのだ。
既に身長が165cm。
毎朝の検量でギリギリの状態が続いていた。
仲間達は何の躊躇いもなく食事を摂り、団欒していた。
当然、貴志は皆を避ける様になっていった。
ひとりだけ蟋蟀(キリギリス)の様な食事だった。
「貴志?騎手を諦めた方がいいんじゃない?」
健祐が冗談交じりで発した一言が貴志を逆上させた。
「俺の事など放っておいてくれ!」
健祐の胸座を掴みながら吐き捨てた。
振り払う様に外へ飛び出した。
「待てよ!貴志。」
・・・・・・貴志は座り込んで頭を抱えていた。
「貴志すまん。言い過ぎだった」
「お前の窶(やつ)れ荒んだ姿を見て先輩達に相談したんだよ」
「先輩達は口を揃えて騎手に向いてないと云っていたんだ」
「このままでは斤量制限で落第する、とも云っていたんだ」
「でも、お前の技術の高さは乗馬会で皆が認めて・・・・・・」
「だから。放っておいてくれ」
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