日没の海

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声にならない叫びが口から漏れる。 冬の海は「冷たい」を通り越して肌を突き刺すように「痛い」。 だが、ここで怯んではいけない。 ストッキングとロングスカートの裾がぐっしょり濡れて重たく張り付くのを感じつつ、また深い方に歩みを進める。 このまま波にさらわれて沖に流されれば、金槌の自分は確実に溺れ死ぬ。 まして、ここは遊泳禁止区域で、地元の人もめったに近付かない浜だ。 ――危ないから、あの浜辺には近づいちゃ駄目。 お祖母ちゃんもよく言っていた。 水の中に足を進めつつ、学生時代に法医学の講義で見た、水死体のスライド写真を思い出す。 私もあんな姿になって新たな教材にされれば、幾ばくかでも医学に貢献できるかもしれない。
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