佐藤月月子

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※※※※※ 部屋の窓からは青灰色の海が見える。 正月を過ぎたばかりの海はこんな色をしているのだ。 テレビを点けると、ちょうど午後のニュースが始まったところだった。 「FS細胞論文の不正認定問題で、同論文の執筆を担当した医化学研究所の久保方明子(くぼかたあきこ)研究員の行方が分からなくなっています」 画面には、青ざめた顔をした、虚ろな目の若い女の写真が映し出されていた。 「医化学研究所の発表では、同研究員の提出した辞表を本日付で……」 テレビを消すと、部屋の中は元通り幽かな波音だけが聞こえてくる。 ホテル特有の、壁の漆喰と各種洗剤の入り混じった匂いも浮かび上がってきた。 「佐藤朋子、か」 これが今日一日の私の名だ。 いや、あと数時間、か。 どのみち日付が明日に変わる頃には、「佐藤朋子」も、「久保方明子」も、この世から消えている。 ふっと息を吐いて、窓の外を改めて見やる。 せめて、晴れ渡った空の下、真っ青な海に飛び込んで死にたかったけれど、もうその程度の幸運すら残っていないらしい。
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