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「お祖母(ばあ)ちゃん、ごめんね」
白い薔薇の花束を置いて、墓に手を合わせた。
「病気、治してあげたかったのに」
私が第一志望の医学部に合格してすぐ、長らく難病を患っていた祖母は亡くなった。
共働きの両親に代わって、何くれと幼い兄と私の世話を焼いてくれた、白い割烹着姿のお祖母ちゃんは、最後は自力で箸を持ち上げることすら出来なくなっていた。
「同じ病気の人も助けたかったのに」
私が発見した万能細胞は誤りだったと世間は言う。
この目で光り輝く細胞を見たというのに。
論文が専門誌に掲載された後、私は十数冊に及ぶ実験ノートも公開し、研究所内でも外部でも再現実験に成功していた。
それなのに、「人体への応用性には問題がある」という降って湧いたような批判を皮切りに、皆が急に掌を返して、私の発見どころか研究そのものを不正だと言い始めた。
新しい万能細胞を認めると、先行研究の利権が危うくなると分かったからだ。
研究者なら誰もが科学の発展のためには誠意と協力を惜しまない。
そう信じて疑わなかったこちらが甘かったのだろう。
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