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 その朝、タツオが考えていたのは、「止水(しすい)」の発動をもっと繊細に制御する方法だった。逆島(さかしま)家伝来の秘術「止水」は、体内時間を操作する技だ。一度特殊に加速されたタイムゾーンにはいると、数倍数十倍に時間を引き延ばすことができる。その分、精神・肉体への負担もおおきく、タツオにはせいぜい数分しか持続できなかった。 体調にもよるのだが、短くて3分、長くともその倍程度である。伝説の名人十八代目の逆島家当主がこれまで最強の「止水」づかいとして有名で、ときに四半刻(しはんとき)、現代でいえば30分ほどこの術を発動したまま戦場を駆(か)けめぐり、血の嵐を巻き起こしたという。  たとえば、分単位でなく秒単位で、この技の発動と解除を制御できれば、3分を10倍の30分に延ばせるかもしれない。そうすれば、すくなくとも異種格闘戦の数試合分ほどには、技の威力を発揮できるだろう。
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