9人が本棚に入れています
本棚に追加
後ろ手に交差された手首にも、その上の上腕二本から胸、背中にかけても、手首と同様に交差された足首にも、微塵の容赦も無い強さで細く荒い縄が食い込んでいた。
男は混乱する思考の中、半ば無意識に地面の土を頬とさるぐつわで撫でる様に首を曲げ、先程視界に入った淡い光の方を見た。
地面と等しい視線。
影になった草や石が見えるその先に、その影達を作っている光源があった。
何か、箱の様な物の上におそらく投光機の類が、首を下げた状態で設置されていた。
周りに光を漏らさないためと思われるカバーの先から砂埃に象られた光の線が、何も無い地面に伸びている。
いや、男には《何も無い地面》という表現が正しくない事は既に分かっていただろう。
先程から聞こえている《規則正しい雑音》
『何の音?』と聞かれれば、誰もが即答できる。金属と土砂が擦れる音。
そう、《何も無い》のではなく、地表と等しい男の視線の先には映らないだけ……
あの投光機の光が照らしているのは……《穴》
あの光の先で、誰かが穴を掘っている。
最初のコメントを投稿しよう!