第1章

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 職業安定所とは一体何をもって安定所と名乗っているのか。16回の面接落ちを体験し、俺の胸には澱みのような憂鬱が山積みとなっていた。もうじき、口から憂鬱が溢れて出てくるかもしれない。  総合庁舎の左隣に聳える四角いコンクリート造りの建物、ハローワークを睨みつける。  高校を卒業してから、18年間、粉骨砕身の思いで働いてきた会社を解雇されたのは3ヶ月前だ。再就職の目処はまだ立っていない。  まだ30年以上払い続けなければいけない住宅ローン、13才の長男、9才の長女のこれから先の教育費。  ディスイズ闇の中……まさに今の俺はそうだ。もう残された道は……あれしかないか。やっぱり。生命保険に入っていて良かった。俺が死ねば、住宅ローンは消え、子供達の20歳までの養育費くらいは賄える。  パレットの上で絵の具を練って作ったようなどこか現実味を感じない青い空を見上げる。こんな晴れた日に死ぬ事になるなんて、俺の人生はなんだったのだろうか。 『人生とは一睡の儚き夢』そんな風に本気で考えられる風流な人間ならば、解雇などされなかったのだろうか。
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