第1章

2/7
前へ
/7ページ
次へ
 都内の大学生、結城雄太を家に帰した後、取調室に残った二人の刑事は、互いに顔を見合わせて、事件の概要を振り返ってみることにした。  8月の某日、夕闇町で二つの大きな事件が発生した。事件当日は酷い嵐で、それが事件の被害をより強める要因となった。一つ目の事件は、夕闇町暴動事件と呼ばれるもので、住民同士が集団ヒステリーのような状態に陥り、互いに殴り合ったり、周囲の建物を破壊して回るという、異様な行動を繰り返した。それは怒りというよりも、強い恐怖感や不安感から引き起こされたものと、専門家は判断した。  もう一つの事件は、御手洗家の館で発生した。連続暴行致死事件である。これは卒業旅行に来た大学生の集団と、熱狂的な廃墟マニア達の間で起こったもので、大学生の一人、結城雄太が、館内の人間達を次々と殺害したものである。彼の動機は不明で、いくら警察が取り調べをしても、雨ガッパに襲われたという意味不明な言葉を連呼するのみで、事件当時の記憶については曖昧な様子だった。殺された高野レミ以外の、人間からは全て、彼の指紋が検出されており、誰もが頭部を砕かれるという、異様な死に方をしていた。  事件の真相は謎に包まれており、ニュースでは、しばらくこの事件の話題で持ち切りになっていた。惜しむらくは、結城雄太以外の生存者がいないこと、そして、騒動の原因が分からないことである。何故、住人達が暴動を起こしたのか。何故、ごく普通の学生であった彼が、館内であんな凄惨な事件を起こしたのか、それを解き明かすにはあまりにも情報が少なすぎた。  事件から10年後、夕闇町は閉鎖になり、この事件について語る者は、一部のカルト的なマニアのみとなり、何年かに一度、番組で特集が組まれて、少しの間 話題になる以外は、特に進展は見られなかった。  ここに何冊かの事件についてまとめた書籍がある。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加