第1章

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 これは病気と言うのだろうか。それとも、この村に伝わる因習で、村人達は行事として行っているのか、全くもって分からないが、数年に一度のペースで暴動が発生しているのは事実だ。  村岡教授の夕闇町来訪記  本書は、神田大学の社会学部教授、村岡喜一郎氏が、夕闇町に訪れた際に書き残した記録である。これを執筆した後に、村岡氏は心臓発作でこの世を亡くなっており、これが遺書の代わりとなった。以下がその内容である。  私は、念願叶って、ここ夕闇町に訪れる機会に恵まれた。今は、宿を借りて、ようやく一息付いたところである。にしても、特に変わった様子はない、穏やかな田舎町だ。もう少し何かが出て来ると期待していたのだが、まあ、これも想定の範囲内だ。  暑い、今は夏だが、ここの暑さは東京の比ではない。まるでオーブンの中に閉じ込められている気分で、息苦しく感じる。おかげで外に出る気が全く起こらない。やれやれ、何のためにここにやって来たのやら。  夜中、廊下で騒いでいる奴がいた。非常識な者がいるものだ。ピチャピチャと、濡れているのか湿っぽい音を出しながら、私のいる部屋の外でひたすら行ったり来たりしているのだ。  緊急事態が発生した。至急、夕闇町から出なければならない。どうやら私は町の住民達から嫌われてしまったようだ。彼らは常に私のことを見張っており、廊下の前にずっと立っているのだ。私が何かの査察官と勘違いしているのか。  マズイ事になった。恐らく、これが私の遺書となるかも知れないので書いておくが、この町に関わったことは失敗だった。嘆いても遅いが、町の連中は群れを成して、私を殺そうと躍起になっている。私のことを化け物と呼び、追い掛けて来るのだ。今は、公園の古い公衆便所に身を潜めているが、いつ見つかってもおかしくはない。  私は今、帰りの電車の中にいる。町の方では火の手が挙がっており、何が何だか分からない。何故、こんなに冷静さを欠いている時に、記録なんぞ付けているのか、理由は明白だ。そうでもしていないと、気がおかしくなってしまいそうだからだ。あの町は全く持って異常だ。皆が常軌を逸しており、何かに怯えているのだ。
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