遠い日の記憶 ――…

2/2
702人が本棚に入れています
本棚に追加
/67ページ
  「花冠作ったんか?上手やな……」 稽古や修行の合間にくる花畑……ここでの昼寝が一番好きや。 せやけど今日は先客が居った。 「あげる……とっても似合うね」 「似合ってたまるか阿呆」 頭に乗せられた花冠。 おかん似のこの顔嫌やねん…… こいつ綺麗な着物着とって、ええとこのお嬢やないんか? なんでこないとこ居るんや? 「今日はあたしの七五三のお祝いなんだけど……かあさまのお見合いの日なの」 「なんでおかんが見合いするんや?」 「おかん?」 「お前の言う母さまや」 「とおさまが死んじゃったからかな?」 「……(聞いたらあかん話やん)」 「そうだ…お菓子あげる…」 袖にこっそり隠し持っとったらしい、光る包みのものを渡される。 あけると真っ黒なそれ。 (…墨ではないんやろうけど…食えるんか?) 「なんやこの甘いんは……」 中からどろっとしたもんが出てきて喉にはりつく甘さに俺は咽せる。 「はにーちょこ」 「俺…甘いもんは嫌いかもしれん…」 「そうなんだ……――は好き、だよ」 「まあ、ええ。俺は昼寝するからあっちで遊んどき」 「あたしもお昼寝する……」 大きな大きな木の下で……寄り添って微睡んで、目覚めたらあいつはもう居らへんかった。 甘いもんが苦手になったあの日 ――… あいつの名前なんやったやろ…… それは遠い遠い日の記憶。 *fin*image=494200797.jpg
/67ページ

最初のコメントを投稿しよう!