1 crumble to nothingness

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別に、陸上に全てをかけていたとか、決してそういうことではない。 でも、走るのは好きだった。 あの爽快感とゴールしたときの喜び。 それに。 兄貴が叶えることができなかった全国大会出場が夢になったと思うと。 苦しかった。 兄貴はもう今、天国にいる。 俺と同じくらいの頃、交通事故に遭い即死だったらしい。 このままタイムが伸びれば、全国大会だって夢じゃなかったんだ。 でもそれは、たった一つの出来事で。 幻想に変わってしまった。 「ただいま。」 そう言って玄関の扉をあけ、自室へ入る。 何をしていいかわからず、呆然と立ち尽くした。 よく考えたら、高校入ってからは勉強と陸上しかやっていなかったような気がする。 それくらい、俺の生活の一部だったんだ。
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