第1章

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だから、彼は演じることにした。自分が頭の空っぽにな奴だと思われれば、もう誰も自分に期待されなくなるけれど、見捨てられることもないだろうと、バカはいてもいなくても変わらないんだから、バカになろうとした。 少女は天才だと言われた。どんなことも教えてもらえればすぐにできる。どんな問題でもすぐに解けてしまう、トラブルが起これば少女の助言ですぐに解決してしまう。まさしく天才と少女は言われたけれど、少女にとってはそんなものは荷物でしかなかった。いや、荷物というのなら持ち続ければいいことだ。利用できるなら利用してみることもできるだろうが、それは重荷でしかなかった。 周囲から期待や尊敬の視線を集めては結果を残すたびに賛辞がやってくるけれど、少女からしたら呪いや祟りの言葉にしか聞こえなかった。 きっとこの才能は自分をいつか押しつぶすだろう。周囲の人間達がニコニコ笑いながら少女を囲い、結果を出せと要求してくる。彼らは少女を見ていない、少女の才能を見ているのだ。いや、利用しようとするならまだ可愛いほうで、彼らは少女がいつか失敗することを期待している。そのために結果を求めてる。 ニュースで芸能人が一度でもスキャンダルが発覚しただけで、ファンだった連中や、事情を知らない第三者までもがそれ見たことかと手のひらを返して罵倒を浴びせる。可愛い、可愛いとほめてきたのに、きれいきれいと指さしていたのに、たった一つの失敗だけであっけなく転落してしまう。少女は自分の境遇と重ね合わせる、もしも自分が天才でなくなったらきっと彼らは自分を見下すのだろう。 すごいすごいと背中を押しながら、目の前にある奈落の底へ落とそうとする。成功し続ける人間ガ失敗して敗北する。この世のどんな娯楽よりも興奮するに違いない。表立って否定しても、内面ではざまぁみろとほくそ笑むに違いない。 天才は呪いだ。才能は祟りだ。 けっして手放すことのできない荷物を背負うことになる。もしも手放せばあとに残るのは空っぽの自分だけ、誰かが言っていた。才能とは義務のような物だと、周囲の期待に答え続けるか、それとも道化になるか、どちかかでしかない。 少女は有能ではあったけれど、バカを演じることはできなかった。性格的な問題もあったし、なにより周囲から期待されなくなるのが恐ろしかったのだ。天才でなくなったら自分を見失いそうだった。 やはり、才能は
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