第1章

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やらなければ帰れないのなら、さっさと終わらせるに限る。後輩達からの期待という押し付けの視線をジクジクと感じても僕は言う。かっこよく、ことさらジョジョの奇妙な冒険のカッコイいポーズを決めて僕は言う。正直に本音を建前で隠すことなく誰もが思ったような、わざわざそんな無理な姿勢にならんでも、この中二病患者がとイタい人を見る目をいっしんに集めながら言う。 「教室をくまなく探しましょう。犯人は教室です」 誰もがずっこけた。至極。まっとうなことを言ったのになぁと思いながら僕は答案用紙を探し始めた。素直に言うならスッゴく恥ずかしかったからだ。あれだけ大見得をポーズまで決めたのに、出てきたセリフがそれだから、もう顔から火がでるほど恥ずかしかったのだ。時には素直になることも大切です。 「うーむ、難局ですな、南極だけに、あ、お姉さん、この曲、何曲目ですか? いい曲ですね。へー、難曲だったんですか。作曲お疲れさまです。なーちゃってって痛いっ!?」 「ふざけてないで真面目に探せ。あと、難曲は作曲が難しいのではなく、演奏が難しいという意味だ」 山本教師に将来、役にたたなさそうな蘊蓄を聞きながら六人で教室を探したけれど、答案用紙は見つからなかった。幸いだったのはこれがテストの模範解答ではなかったことと、テストが全て終わっていたことだろう。もしも都会だったら山本教師は責任を取らされるだろうが、ここはゆるい田舎町の中学校だ。そこまで大事にはなるまい、山本教師が校長にネチネチと嫌みを言われるだけだ。ここは素直に言おう。ご愁傷様とどや顔しておいた。当たり前みたいに殴られました。 捜索するうえでわかったことは、山本教師が答案用紙をどこに置いたかうろ覚えだったことだ。教卓の周囲を探してみても不要になったプリントは見つかっても答案用紙は見つからない。 「もう一つは教卓が濡れてたってことか、これって掃除の最中に花瓶を倒しちゃったからなんだな?」 「ええ、そうです。掃除の最中に野球ごっこしてたらうっかり俺が倒しました」 やっぱり掃除はサボリたくなるよな。二年生の男の子に、な? と同意を求めるとプイッと視線を逸らした。あれ、裏切られた。あと、眉間に青筋たてた山本教師が俺を睨む。うっかり掃除中にサボってたことがバレちゃったぜ。テヘペロ。 「ちゃんとほら綺麗に拭き取っておきましたよ。これで、あ、はい、よくないですね」
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