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「セナ………?」
俺の住むアパートがある方向から、声が聞こえた。
俺は涙と雪で滲んだ視界から微かに人が近付いて来るのが分かり、そのまま黙って見ている。
(誰……?)
「セナッ!」
俺の存在を見つけ、黒いサングラスと深くニット帽を被った男がこっちに向かって走って来る。
俺はその存在を、顔が見えなくても誰だかすぐに分かった。
「サクーッ…」
涙がポロポロ溢れ、人間はこんなにも涙が出る事を初めて知った。
朔一だ。
俺がずっと、ずっとずっと求めていた朔一が俺の方に走って来る。
サングラスを外した朔一の顔を良く見たいのに、雪が邪魔をしてちゃんと顔が見えない。
でも、朔一が走って来くるからか、どんどん距離が縮まって顔がハッキリと見えた。
「セナ、千夏。良かった、良かった帰って来て」
朔一はそのまま走った勢いで俺を抱き締める。
朔一の声が耳から身体に染み渡る。
「セナ、会いたかった……ずっと、ずっと会いたかった」
朔一の身体は冷え切っていた。
もしかしたら、この雪の中ずっとアパートの前で待っていたのかもしれない。
朔一の肩に積もった雪が、俺の顔に付く。
それは、直ぐに溶け水滴に変わる。
「サク…サクぅ……」
朔一の変わらない匂いが俺の不安を一気に消し去っていく。
「会いたかった…。ずっと待ってたぁ…」
会いたくて、会いたくて会いたくて堪らなかった。
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