背後の視線。

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透き通ったガラス扉の向こう側に、俯きながら右手を翳す女性の姿が見え、私は咄嗟に足を止めました。 その女性は、不自然に頭の位置が高く、浮遊しているようにも見えました。 そしてその翳された右手は、凝視しないと認識出来ない程ゆっくりと手招きしているようにも見えました。 私はすぐに引き返そうとしましたが、そこでまたふとある事に気付きました。 よく見るとその女性は、ガラス扉の向こう側にいるのではなく、ガラス扉に反射した私達のすぐ背後にいるようにも見え、前にいるのか後ろにいるのかわからない状態でした。 後ろにいた場合、翳された右手はあと一歩のところで友達の肩に触れる位置にあり、私はすぐに友達の手を引いて走り出しました。 その後しばらく、少し気を落ち着かせてから友達は一人で家へと帰りましたが、私が見てしまったあの女性は誰だったのか、何処へ行ってしまったのか…結局わからず終いです。 その一年後、友達は引っ越しました。
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