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シンが出て行った後、爆発が収まるとともに、大きなものが倒れる音が響く。部屋に残っていた少年キリトは、先ほどの魔法によって体が焼け爛れている男性の近くへと駆け寄った。
「今直すから。ヒール」
男性へと手が届く距離にしゃがみこんだキリト。目を閉じ言葉を発すると、彼の左手が淡い光りを放つ。
手を男性に当てると、光が乗り移ったように男性が淡く光輝き、先ほどまで焼け爛れていた部分が急速に元に戻っていく。最終的には彼が部屋に入ったときと変わらぬ姿を見せていた。
無論、服は相変わらず焼け焦げたままではあるが。
「ゲホッ、ゴホッ……ありがとう。キリト」
「いや、グラハムさんこそ大丈夫?」
「お、俺は大丈夫だ。それよりキリト、お前も学園に行ってもらうってことで良いか?」
「分かった。僕は別に構わないよ」
「そうか。じゃあこれ詳細だ」
グラハムと呼ばれた白髪混じりの男性は、再び机の中をガサゴソと探り始め、先程シンに渡したものと同じ書類をキリトに手渡した。
「やっぱり明日なんだ。所で準備は何をすればいいの?」
「準備は必要ない。明日寮に行ったときに学園で必要なものは支給されるはずだ。ちなみに制服はもうお前らの部屋に届いているはずだ。明日はそれを着ていって欲しい」
グラハムは先程までの恐怖に染まった表情は消えており、今は穏やかで優しいおじさんという雰囲気を持ち合わせている。
「分かった。所でグラハムさん。ちょっと聞きたいことがあるんだ」
「ん? 聞きたいこととは?」
突然の質問に頬が下りるグラハム。
「うん。学園ってさ、個々人の戦闘能力の向上を図るとともに戦闘適性を見極め、更には対魔物組織への入団を推奨することで、結果として人々を魔物の脅威から遠ざけようという意向の下で全員が学園に通わなければならないっていう事になってるわけじゃない? つまりさ、自分で身を守るために力をつけるってことと、人材選抜の意味を学園は兼ねてるわけじゃない? でもさ、僕もだけどシンだって、既にギルドという対魔物組織に入団しているわけだから選抜はいらないし、戦闘能力の向上だって学園で図れる見込みはないのに、それでも入学しなきゃいけないんだよね。それって何か別の理由でもあるの?」
キリトの視線の先には、両手で顔を覆い隠しているグラハムの姿があった。
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