プロローグ

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グラハムの呟きの後、退出したキリトは白い壁と黒いカーペットしか視界に映らない廊下をひたすら歩いていた。遠くで聞こえるざわめきも彼の耳には入らず、冴えない表情で何度も溜息をついていた。 「おい、水龍の操使者」  突如聞こえた言葉に、彼は思わず肩を跳ねあげる。ちなみに『水龍の操使者』とは、キリトのギルドでの二つ名である。  二つ名とは、ギルドに所属している人の中でも、指折りの実力を持つと認定された人のコードネームの様なものだ。  ギルドに所属している人には、実力に伴って必ずランクと言うものが与えられる。Eから順にD、C、B、A、Sとランクアップしていき、その先にWS、TS、Zと続き、Zが一番強いランクと認定されている。  二つ名が与えられるのはTSランクからであるが、その人数は現在二億と言う総人口がいる中でたったの四十人である。  ちなみに何故二つ名が必要なのか。これは、人々が自分たちの生存権利を守ってくれるギルドと言う物への憧れによる。特に高い実力を有する人物は、自分を含め多くの人々を颯爽と助けてくれると信じているためである。  これゆえギルドで高ランクを保有すると言うのは、一方で社会に対して多大な影響力を保有すると言っても過言ではない。人々に多大な信頼を置かれている高ランク保有者の一言は、ある時は人々を穏やかに先導し、ある時は過激な反乱をおこす事も可能にさせるほど巨大な影響力があるのだ。  過去本名を明かしてしまい、追っかけだけならまだしも多数の暗殺者や政略的人物にまで付け回されるようになった人物がいたという歴史があるくらい、ある人にとっては尊敬の対象であり、ある人にとっては巨大な弊害となり得る存在。  また以上の話から分かるように、人々はギルドに対する純粋な憧れの感情を抱いているため、そもそもギルドに入っているだけでも、遠方の村では社会的なステータスになる。少年少女の憧れの職業の一つに『二つ名持ちのギルドメンバー』と言う職業があるくらい、競争力も高く、人々の関心が高いのだ。  改めて、キリトが声をした方を見てみると、先程暴れまわっていた人物、ギルド最強、世界で唯一のZランク保持者と謳われる『紅蓮の覇王』ことシンの姿があった。
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