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「なぁ君?」
俺は“なぁ君”と聞いて、もしかして前の学校で仲が良かった子かもしれないと思った。
「その、なぁ君に会う為にお前、駅でウロウロしてたのか?」
朔一がそう聞くと、蘭丸は大きく頷いた。
「なぁ君に…っ…謝りたくて…っ」
朔一は、駅で一人でうろついていた蘭丸を見つけて心配になり、ここに誘ったのだとその会話を聞いて思った。
「なぁ君に……っ、雪が降ったら会いに行くって…っ…言ったんだ……」
雪が降ったら、それは初雪が降ったらと言う事だろう。
だから、蘭丸は他の子達みたいに初雪という物には喜べなかった。
逆に、降らないで欲しかったのかもしれない。
自分がまだ、会える準備をしていないから。
撮影はまだ終わっていない。
でも、初雪は降ってしまい、それからも雪は降り続けている。
蘭丸の中で初雪が降った時点で、そのなぁ君には後ろめたさがあったのかもしれない。
「なぁ君に…っ、嫌われたら…っどうしよぅ……」
「蘭丸……」
俺は、蘭丸の担任になってから蘭丸がこんなに自分の気持ちを表に出した所を見た事が無い。
たぶん、母親にもこの気持ちは言っていなかったと思う。
なぁ君に会いたい。約束がある。
でも、やっと掴んだ撮影はまだ続いている。
周りからの期待、母親の期待、それを蘭丸はこんな小さな身体で一人抱え込んでいた。
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