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俺は自分が情けなかった。
こんなに悩んでいる蘭丸に気付いてやれなかった。
「なぁ君……怒ってる…。俺っ…、なぁ君にだけは嫌われたくない……っ」
蘭丸が溢れる涙を手で拭いながら話す。
その蘭丸に、朔一が言った。
「俺も…。お前と同じような経験があるな…」
「咲君……も?」
蘭丸は、朔一のその言葉に顔を挙げて朔一をじっと見た。
「俺も、ここ(東京)に来て一年目の初雪が降った時、どうしても恋人に会いたくてマネージャーに内緒で会いに行こうとしたんだ」
朔一が今話している話しは、俺は一度も聞いた事が無かった。
「でも、電車のチケットを買おうとしたらすぐに事務所の人間に掴まって強引に連れ戻された。たぶん…俺の何処かにGPSでも付けてたんじゃないかな」
そう話す朔一の顔は切なそうだった。たぶん、その時の自分の心境を思い出しているようだった。
「それから、俺には監視役が付いて、携帯さえも制限された……」
その話しは全て初耳で、離れていた時に朔一の身にそんな事があった事に、俺は一人ショックを受けた。
朔一は、俺に会いに来ようとしていた。
なのに俺は、その間ずっと不安になっていた。
朔一が会いに来るまでずっと。
「その間…恋人にはすごく心配させたし、不安にさせた」
朔一が俺を見た。
「でも、相手も同じ気持ちだと思ってたから頑張れた。俺が不安になったら、相手も不安になると思ってさ」
朔一が俺の顔を見て優しく笑った。
あの時は辛かった。でも、今、朔一は俺に向かって優しく笑ってくれる。
手を伸ばせば届く所に朔一がいる。
あの時の辛さがあるから、今の俺達が存在する。
今はそう思う。
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