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ガラリと戸をスライドさせると、いつものように気怠い表情が入り口へ向けられる。
「またお前か春山……凝りねぇな」
白衣を身にまとった姿で呆れたようにそう呟くのは、保健医の天堂先生。
天堂一郎。
教師のくせに口がめっぽう悪くて、それに生徒へセクハラするし、外見を見ればだらしがないの一言だ。
セットされていないボサボサの髪型に、無精髭。
歳は三十代前半らしいが、すでに若さは失われつつある。
「今度はどこだよ」
深く腰をかけていた背もたれから、面倒臭そうに体を起こす。
半分落ちている眠気眼で俺を見上げながら、早く座れと声をかけた。
大人しく先生の前へ座ると、俺は自分の右足を少しだけ前へ差し出す。
「今日は膝かよ。えらく擦り剥けてんな」
溜息交じりにそう言われ、思わずむすっと顔が強張る。
「うるさいな。保健医なんだから文句言わず治療しろよ」
「ぁあ?教師に向かってなんだその口の利き方は。掘るぞコラ」
「ーーーーっ……」
ほら。
こうやって、誰にでもセクハラまがいの言葉を投げ付ける教師。
いやもう、セクハラじゃん完璧。
これってどうなの?
グッと先生の顔を見上げながら、頬が熱くなるのを感じたまま口を開いた。
「っ…………掘れるもんなら、掘ってみろよっ…………」
「…………」
勇気を振り絞って出した、この言葉も。
「バーカ。お前みてーなガキに興味あるか」
こんな風にして、呆気ないほど一瞬で切り捨てられてしまうんだ。
俺が、どんな気持ちで言ったのか、知りもしないで。
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