春山修斗・1

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天堂先生と、錦戸先輩。 二人が密会している現場に遭遇したのは、先生と出会って二週間目の事だった。 あの日、俺に手当をしてくれた先生の気怠そうな、だけど優しい笑顔が忘れられなくて。 そして、また見たくて。 それが恋かどうかも曖昧なまま、会いたい衝動を抑えられずについ水曜日以外に会いに行ってしまった。 先生がいるかどうかも分からないのに。 部活が終わって、片付けをして。 皆が帰ったのを見計らって保健室へ向かう。 ドキドキした。 これで先生に会うことが出来たら、この曜日も来よう。 そう思って。 でも。 扉を微かに開いた瞬間、漏れて来た声に体が自然と硬直する。 『先生……するの?』 聞き慣れた声、ではない。 だけど、知っている。 聞き慣れていないのは、この声の主があまり人前で喋らないからだ。 『そのつもりで来たんだろ?』 返す先生の声がいつもより更に低く、そして優しい気がした。 『……分からない。そうかも』 『相変わらずフワフワしてやがんな、お前は』 『……だからそれ、何なの?』 『フワフワだよ。それともユラユラの方がいいか?』 『……なおさら分かんないよ』 楽しそうな先生の声と、楽しそうな雰囲気。 そして数分後に聞こえた。 『……ーーーーっふ、ぅ……そ、れ……やめ……ぁ、』 甘くて切ない、錦戸先輩の堪えるような声。 頭の中が、真っ白になった。
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