春山修斗・1

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気が付けば全速力で走っていた。 呼吸をすることも忘れて、ただひたすらどこを目指すともなく走っていた。 着いたのは運動場の隅っこで。 俺は、いつも自主練習をしていたその場所に、呆然と立ち尽くす。 脳裏に過り続けるのは、先生の楽しそうな声と錦戸先輩の切なく甘い声。 あの二人。 何やってたんだ? なんて。 いくら俺でも、そんな事分かる。 分かってしまう。 それが辛くて、苦しくて。 あぁ、俺、先生の事好きなんだ。 なんて。 こんなタイミングで気付かなくたって、いいのに。 先生には特別な存在がいた。 それは、サッカー部エースの錦戸先輩。 先輩は生徒という枠組みを軽々と越えて、先生の元へ行ってしまった。 俺は、こんなにも壁を感じているのに。 何それ。 何だよ。 何だよ、俺。 すっげー、虚しいじゃんか。 気が付けば涙が溢れそうになり、それをぎゅうっと唇を噛み締めて堪えながら、 バッグからサッカーボールを取り出す。 鞄を投げ捨て、一心不乱にボールを蹴った。 途中で勢い余ってこけてしまって、膝を軽く擦りむく。 痛い、けど。 保健室には、行けない。 怪我も先生の事も忘れるため、がむしゃらにボールを蹴り続けた。
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