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「チョップ」
頭のちょうどつむじ辺りに玲二のチョップがガスッと直撃し、思わずギャッと叫んでしまう。
「歩きながらボーッとしすぎ。見て、目の前」
そう言われて焦点を目の前に合わせると、壁だった。
どうやら廊下を歩いていた筈が、方向が少しずつずれて壁にぶつかる寸前だったらしい。
「あ、ありがと」
苦笑いで玲二を振り返ると、呆れた二つの鋭い目がじっとりと俺を見ている。
「あのさぁ。そんなにも分かりやすい悩み方するなら、相談された方がいいんだけど?」
「ーーーー…………出来ない」
咄嗟に返してしまった言葉に、玲二の眉が少しだけ中心に寄る。
そんな微かな動きに気付き、慌てて言葉を継ぎ足した。
「いや、あの!でっ、出来ないのは玲二を信用してないからとか、
そんな酷い理由じゃ絶対ないから!俺、玲二のことすっげー好きだし、大事だし、親友と思って、」
「ーーーーはいはい。分かった分かった、とりあえず落ち着け」
俺の言葉を呆れた様子で遮る玲二に、申し訳ない顔のまま視線を落とす。
「…………ごめん、玲二。言える時が来たら、言う」
そう答えると、玲二は「分かったから」と仕方なさそうに笑いながら言った。
親友にも言えない恋を、俺はしている。
そしてそれは、完全に報われる希望もなくて。
なんて。
不毛な恋、なんだろう。
「ーーぁあ?お前らもうすぐチャイム鳴るぞ?」
「ーーーーっ」
後ろから響いたその声に、体が自然とビクリと震える。
気怠げな低い声。
「おら。教室戻った戻った」
白衣をまとい、両手をポケットにつめたままそこに立つ先生は、相変わらず眠た気な顔をしていた。
「天堂、先生」
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