春山修斗・1

15/17
前へ
/103ページ
次へ
先生は、大人で。 意地悪で。 「あー、チャイム鳴っちまったぞ?俺知らねーっと」 校内に響き渡る鐘の音を聞きながら、先生は気怠そうに欠伸をしながら「じゃあな」と言い残し去って行った。 「ほら、修斗。急ごう」 グイと腕を引っ張られながら歩く俺は、先ほどの余韻がまだ残っているのか少しだけボンヤリとしていて。 顔…………近かったな。 なんて、そんな事を考えていた。 あそこまで顔が近付いたのは、初めてだ。 キスなんてしたことのない俺は、キスする距離がどれくらい近いのかも分からない。 でも。 あれ以上先生の顔が近付いたら、きっと恥ずかしさと動揺で爆発してしまうに違いない。 「ほら、またボーッとしてる。早く行くぞ!」 ペシッとおでこを叩かれ今度こそ我に返る。 すると玲二の呆れ顔が疑うような眼差しを俺に向けていた。 「…………お前さぁ」 その少しだけ低い声に、一瞬心臓がドキッと跳ねた。 何を、言われるのか。 というか、何も、言わないで。 「…………まぁ、いいや。早く行こ」 俺の願いが叶ったのか、玲二はそう言い放つとサッサと歩き始めてしまった。 何を言おうとしていたのか、なんて。 今は考えたくない。 はぁ、と溜息を吐きながら玲二のあとを追いかける。 教室に着くとちょうど授業始まりの挨拶をしている所だったので、玲二と二人でそそくさと後ろからバレないように入った。
/103ページ

最初のコメントを投稿しよう!

506人が本棚に入れています
本棚に追加