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先生は、大人で。
意地悪で。
「あー、チャイム鳴っちまったぞ?俺知らねーっと」
校内に響き渡る鐘の音を聞きながら、先生は気怠そうに欠伸をしながら「じゃあな」と言い残し去って行った。
「ほら、修斗。急ごう」
グイと腕を引っ張られながら歩く俺は、先ほどの余韻がまだ残っているのか少しだけボンヤリとしていて。
顔…………近かったな。
なんて、そんな事を考えていた。
あそこまで顔が近付いたのは、初めてだ。
キスなんてしたことのない俺は、キスする距離がどれくらい近いのかも分からない。
でも。
あれ以上先生の顔が近付いたら、きっと恥ずかしさと動揺で爆発してしまうに違いない。
「ほら、またボーッとしてる。早く行くぞ!」
ペシッとおでこを叩かれ今度こそ我に返る。
すると玲二の呆れ顔が疑うような眼差しを俺に向けていた。
「…………お前さぁ」
その少しだけ低い声に、一瞬心臓がドキッと跳ねた。
何を、言われるのか。
というか、何も、言わないで。
「…………まぁ、いいや。早く行こ」
俺の願いが叶ったのか、玲二はそう言い放つとサッサと歩き始めてしまった。
何を言おうとしていたのか、なんて。
今は考えたくない。
はぁ、と溜息を吐きながら玲二のあとを追いかける。
教室に着くとちょうど授業始まりの挨拶をしている所だったので、玲二と二人でそそくさと後ろからバレないように入った。
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