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俺、春山修斗(はるやま しゅうと)は。
水曜日になると、必ず放課後ここに来る。
この、保健室に。
「おら、これでもう大丈夫だ。さっさと帰れ」
ふわ~と欠伸をこぼしながら伸びをするその姿は、窓から差し込んだ夕日の紅色でほんの少しだけ霞んで見えた。
輪郭を描くように日の光を反射するその姿を、微かに目を細めながら見つめる。
「ん?何見てんだよ、さっさと帰れっての」
逆光で少し暗くなった先生の顔は呆れたような表情で俺へ向けられていて。
「…………先生、送ってってよ。俺、重症患者だし」
そう言うと必ず少しだけ微笑んでくれるから、ついついいつも同じ言葉を残してしまう。
「バーカ。早く帰れ。もう怪我すんなよ?」
「ケチ」
不貞腐れたように呟くと、先生は右手をグッと差し出し俺の頭を押すように撫でる。
その温かくて大きな手が触れる度、俺の心の中では物凄い現象が巻き起こるんだ。
ドンドコドンドコ、心臓は鳴り響き。
胸がぎゅうっと苦しくて、呼吸が一瞬止まってしまう。
知らないだろ、先生。
気付いてないだろ。
俺。
こんなにも、あんたの事が。
「またね、先生」
「また来なくていいっつーの。じゃあな」
軽くこぼれる笑い声と共にその笑顔をしっかりと胸の奥へ刻み込んでから、俺は保健室をあとにする。
閉めた戸の向こうに先生を思い浮かべながら、大きくひとつ息を吐いた。
ねぇ。
先生。
気付いてよ。
俺の気持ち。
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