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先生はいつだって、気軽に生徒へセクハラ発言を繰り返す。
けれど決まって。
本気で返そうとすると、はぐらかされる。
切り捨てられる。
なんで?
なんて、聞くだけ野暮だ。
馬鹿らしい。
興味がない。
ただ、それだけのこと。
だからって、俺の気持ちは簡単には消えてくれなくて。
先生が、悪いんだ。
あの日。
サッカー部の練習も終わって門が閉まるまでの間、俺はずっと無茶な練習をしていた。
補欠組からレギュラー組になりたい思いでとにかく必死で。
それは勿論今もだけど。
ただ、気持ちばかりが焦って、基礎も程々につい大技を試してしまう。
そして結局、砂で滑って肘を大きく擦りむいた俺に、先生が声をかけて来た。
『ドジだなーお前。見てやるから来いよ』
帰るつもりだったのか、鞄を肩にかけていた先生は、
そのまま目を丸くしている俺を連れて保健室に戻ってくれた。
『お前、いつもあんな無茶な練習してんの?』
肘の手当てをしながら言う先生に、俺は気まずい思いで微かに頷く。
どうせ、早く帰れって言われるんだろう、とか。
そんな風に思ってた。
なのに。
『まぁ……水曜日は俺も遅くまでいるし、怪我した時は素直に来い』
そんな風に、先生が笑って言うから。
簡単だった。
恋に落ちるのなんて。
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