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クラバットがするりとシャロンの襟首から垂れ落ちると、緩まったシャツの隙間にえもいわれぬ色気が漂い、ローエルは喉をごくりと鳴らした。
一枚隔てた肌の熱さと逞しい胸板が容易に想像でき、胸元に顔をうずめたい衝動に駆られた。
だが、潤んだ目元で誘うようにシャロンを見上げた瞬間、ローエルは目論見が外れたことにすぐにも気付くことになる。
白銀の髪が窓辺から受ける月の祝福に照らされ、息の根を凍り付かせるだけの冷酷なコバルトブルーの瞳が、ガラス越しにローエルに牙を剥いていた。
白いシャツに揺れる黒檀のクラバットが蛇のようにうねっていた。
大腿を包み込む金刺繍があしらわれた豪華な装い、侯爵の威厳、それら全てがローエルを拒絶していた。
逃げなくては――!
何かが彼女の恐怖を急き立てた。
ローエルはすぐさま自ら手を振りほどき、露わになった胸を隠すや否や、青ざめた顔にそれでも何とか笑みを浮かばせ一礼し、その場を去っていった。
キャメル色のドアが静寂を告げると、シャロンはクラバットを正し、ドア向こうで今もなお繰り広げられている社交パーティーを思い、うんざりしたようにかぶりを振った。
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