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凄い、と思った。 筋肉のあるがっしりした男なのに… ひとつひとつの動きが優雅で滑らかで、指先まで丁寧で。 凄い…… カウンターで一杯目を飲み終えた後、堰を切ったように俺の口は動き出した。 「お、俺!村上秋生と言います。あの、俺、感動して…その、ここで雇って下さい!」 身を乗り出し、カウンターを乗り越えんばかりの勢いの俺に、彼はクククッと笑った。 「失礼しました。私、マスターの横溝と申します。申し訳ありませんが、スタッフを雇うつもりはありません。間に合ってますから」 そしてすみませんと頭を下げて、また何かを作りに戻ってしまった。 その後の俺は呆然としたままだったと思う。記憶が曖昧で、あまり覚えていない。 ただただ、ショックで… そして諦めきれなくて…
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