帰郷

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シャン、シャンという鈴の実が生ったような棒をもった村人を先頭に、神輿に乗った幼馴染の麻里絵が10人程の村人に担がれて、この村の神社に向かっている。 まだ少し幼さが残る小さな顔は、俺が初めて見る化粧で綺麗になっていて、まるで女神でも見ているかのような錯覚を覚えた。 「……話すなら、今しかねえぞ。鳥居をくぐったら儀式に入るからな」 俺の横を通りかかった神輿は止まる気配はない。 少し前から麻里絵は俺を見付けていたのか、不安そうに微笑んで、小さく口を開いた。 麻里絵が何を言ったのか、言葉は聞き取れない。 だけど、何を言っているのかは分かった。 その言葉に対して、俺は何を言ったのだろう。 まだ16歳で村の儀式の捧げ物になる幼馴染に対して、俺は何が出来たのだろう。 何かを叫んで麻里絵に駆け寄ったけど、警護と呼ばれる護衛に取り押さえられて、何もしてやる事が出来ずに。 地面に身体を押さえ付けられて、神社に向かう麻里絵の後ろ姿を見る事しか出来なかった。 俺の村……村人は「谷」と呼んでいるこの村に、血塗られた過去があった事を知った俺は、なんとしてでもこの儀式をやめさせたかったけど、たかだか17歳の子供にそんな事なんて出来ないと思い知らされただけだった。
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