帰郷

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二日前、俺はそんな儀式の事など何も知らずに、親から呼び戻されて谷に帰る為に電車に乗っていた。 家から三時間もかかる高校に進学して寮生活を送っていたけど、谷の行事があるからと、ご丁寧に学校に許可を得てまで俺を戻したいらしい。 まあ、今年の春休みにも部活で帰ってなかったから、たまには帰るのも良いんだけど。 一時間も電車に乗っていると、車窓の景色が、四角いコンクリートの群れから柔らかな緑へと変わって行く。 この感覚は好きだ。 自分が生まれ育った谷が近くなっているような気がして。 それにしても、去年は呼ばれなかったのに、今年はそんな儀式なんてのがあるんだな。 どこの地域にもありそうな、何年かに一度の祭りか何かだろうと、この時俺は気にもしないでいた。 そして電車は、谷の最寄り駅の隣の駅に停車した。 この町の高校に進学した友達も多い。 すれ違いが多くて、中学校を卒業してからなかなか皆には会えないけど、元気にやってるのかな。 なんて思いながら、電車に乗り込む人を見ていた時だった。 「なんだよ、こんな時間でも空いてる席がねぇのかよ」 四人掛けのシートのみの、この車両に入って来るなり、金髪のいかにもヤンキーな男が声を上げた。
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