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「ん? なに? 」
「前、キスしたら全部許すって言ってくれたろ? あれってまだ有効…? 」
長谷川さんが申し訳なさそうに瞳を伏せた。
「………アノ野郎っ…」
学生ごときが長谷川さんに手を出せるとは思えない、きっとアノ男だ。油彩科の講師。
「ゴメン、俺に隙があったんだ、でもっ」
「いいよ。有効」
「え? 」
「ごめん。実はね。俺も今日、長谷川さんと同じで隙を突かれた」
「キス…されたのか? 」
「ん。ちょっと触れただけ」
「凄いな貴弘」
「なにが? 」
「俺、いま嫉妬で腹ん中ぐちゃぐちゃだよ」
「俺だってハラワタ煮えくり返りそうだよ、でも。長谷川さんが妬いてくれて嬉しい」
「ダメだ。俺はもう我慢できない」
「え? はせっ…んぅ…」
珍しく長谷川さんから深いキスを仕掛けてきた。
アレをしてくれる時のように、舌を絡ませ吸い上げて優しく食む。
「俺のこと、抱いてみる? 」
笑いながら問えば。
「抱いてやろうか? 貴弘処女だもんな」
と笑って返されてしまった。半分本気の色が見えたので俺はすぐ彼を組み敷いて主導権を取り戻した。
「だーめ。俺は長谷川さんを善がらせるのがいいの」
「…して。…抱いて貴弘」
なんて魅惑的な声――。
「その前に。 『帳消しのキス』 しよ」
「ん…」
顔を傾けて、唇を優しく触れ合わせる。性欲を煽るようなキスではなく、互いの気持ちを確かめる為の長い長いキス。まだ恋人同士ではなかった頃に、長谷川さんが俺にしてくれたキス。
それは初心に帰るというか、自分で言うのも照れ臭いが、ふたりのピュアな恋心を思い出させてくれる行為だった。
「…少しはヤキモチ消えた? 」
「うん…でもまだ足りない」
「それは、これからのお楽しみ。なんてったってバレンタインの夜だからね」
「気合も入る? 」
「そ、覚悟してね、長谷川さん」
「え…? あっ…」
するりと肩から肘までを指先でなぞると、長谷川さんの身体がざぁっと粟立った。少し首筋を伸ばして次の快感の予感に震えている。
俺はそのキレイな首筋に唇を当てて軽く吸うと、鼻の先で耳のそばまでくすぐるように愛撫した。
「あ…っ」
「もっと…聞かせて」
耳元で囁くと泣きそうな顔になる。その顔はもっといじめたくて、愛したくて、俺をたまらない気持ちにさせた。
長谷川さんの残りの服を脱がせると、うつ伏せに寝るよう促した。
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