第1章

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格の違い 「よかった。先生…まだいてくれて」 「良かったじゃないよヤマト。早く制作進めてくれ」 「はい」 もう午後8時を過ぎていた。教室に残っていた生徒達も帰り支度を始めている。 息を切らしてやってきたヤマトは自分の作品を作業場に移動させていた。まだやっと人型になったくらいの作品は男女の区別もつかない程度だ。他の生徒は顔の造形など細かいところまで手が進んでいる。 ヤマトの作品が提出期限に間に合うか、長谷川は気が気ではなかった。 「急げよー。ヤマト、教授は待ってくれない人だから。間に合わないと単位が危ないぞ」 「間に合わせます。先生のために」 「俺のため? 」 「ええ。だって俺のせいで先生の評価も落ちるんですよね」 「そういうことは気にしなくていいから。おまえもっとがっついて制作しろよ、アーティストの卵がそんな弱気でどーすんだよ」 長谷川が諭してる間もヤマトは手を動かしていた。 その手つきを見ながら長谷川は思う。スジは悪くない。センスも良い。でも何かが足りない。 「情熱…か」 「え? 」 ヤマトが振り向く。 「おまえ。なんで今日遅れたの? 」 「俺…親に無理言ってココ入ったんで、金、なくて。バイトしてました」 「なんで無理してまでココに? しかも塑像なんて卒業しても食っていくの大変だぞ? 」 「いや。ウチ自営業なんで、後継ぐの決まってるんです。だから最後のわがままってことで」 「そのわがままの理由聞いてんだよ」 「先生です」 『きっとセンセーがらみだとおもうな』 黒部の言葉が脳裏をよぎった。 「何で俺」 「なに言ってるんですか、長谷川先生に憧れてココ来た生徒何人いると思ってるんです? こないだのチョコでわかるじゃないっすか」 だんだんヤマトの言葉遣いがくだけてくる。が、長谷川は気にした風でもなかった。 「あれは…ってそう言えばおまえ、金無いくせにブランドチョコなんて買うなよ、もったいないだろっ」 穏やかだったヤマトの表情が一瞬で引き締まる。 「気持ち…表すのにもったいないは無いんじゃないっすか」 「ヤマト…」 「先生にチョコを買うために単発のバイト入れて稼ぎました。そういう努力も、もったいないって言うんですか」 「…もったいないよ。なんで俺なんだ、どうしてその気持ちを制作に向けられないんだ? 」
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