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「何言ってんだ、あと二年あるだろ」
「実は…オヤジが入院して、…この作品仕上げたら退学するつもりなんです。俺」
「退学? 」
「ホッとしたでしょ。センセ」
「バカ。そんなわけあるかっ」
寝耳に水だった。なんと声をかけて良いか分からずにいると、ヤマトが口を開く。
「俺。先生に憧れてたんだ。本当だよ。アーティストとしても、恋愛の対象としても。先生のことをそういう意味で好きだって気付いたのは、他の男に告られてからだけど、でも純粋に好きでした」
「もう、片はついたのか? 」
「いえ…。でも童話の北風と太陽みたいに無理やりむしり取ろうとしても無駄なんだって気付きました。先生には無敵の太陽がついてるから…ですよね」
「…そうだな。確かに太陽みたいなヤツだよ」
言われてみて改めて恋人の魅力に気付かされる。そしてその恋人は最近大人びてきたなと思っていた。
もう二十八なのだからそれなりに落ち着いてきて当たり前なのだが、心の余裕というか、男っぷりが上がってきた気がしてならない。
それは嬉しいことでもあるが、心配事が増える悩みの種でもあった。
「先生? 」
「ん? ああ。なんでもない。…なぁヤマト。大学退学じゃなく休学にしてみたらどうだ? 一年留年したっていいじゃないか。オマエこんな良い作品作れるのにもったいないよ。オヤジさん、仕事に復帰するかもしれないだろ」
「先生は俺がいて嫌じゃないの? 」
「オマエはみんなと一緒。俺のかわいい生徒だよ」
「また襲うかもしれませんよ。手の内読めたし」
「手の内はまだ全部見せてない、返り討ちにしてやるよ」
「ああぁー。やっぱすげー好き。先生」
「諦めの悪いやつだな。望みはないよ」
「北風は太陽に勝てませんからね。わかってます。大学のこと、良く考えて親とも相談してみます」
「ん。分かった」
ヤマトと話した翌日。珍しく学食で昼食をとった長谷川はふと隣に人の気配を感じた。
「そこの席、空いてる? 」
長身の男がトレーにカレーとコップに入った水を乗せて立っていた。
「香曽我部先生…どうぞ…」
「どうも」
慣れた所作でトレーをテーブルに置き、向かいの席に座る。ただそれだけでも目を離せない動きだった。
「珍しいですね。長谷川先生が学食なんて。お手製弁当はお休み? …寝坊かな? もしかして」
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