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ヤマトの制作に付き合って毎晩深夜まで教室を開けていた。朝に強い長谷川もさすがに今日は寝坊してしまった。
不覚…。とため息をついたベッドには嬉しそうに抱きしめてくる恋人の笑顔。普段一緒に朝を迎えることがないため、(長谷川は早朝に起きて太極拳を一通り流し、シャワーを浴びて朝食と弁当を作るのが日課だ)一緒に起きると恋人にとっては甘い朝を感じさせるのだという。
「もしかして。図星? ごちそうさま」
「まだ食べてるじゃないですか」
「コレじゃなくて。キミ達のこと」
「…そんなんじゃ。ありません」
「そう? ふーん。あの若い彼。少しは大人になったってわけだ」
「どういう意味です? 」
「最近彫刻科棟の教室が深夜まで明かりがついてるから、長谷川先生はきっとお疲れだろうと、その上年下の恋人の欲めに応じてたら大変だなぁなんて、心配してたんですよ」
「香曽我部先生はそんな時間まで何を? 」
「ちいさな僕だけの恋人を描いてます。育てるように少しずつね。小さなカンバスだから難しいよ」
「まだ、描き終わらないんですか? 香曽我部先生が? 」
「名残惜しくて。描き終えてしまうのが。でも、もう描き足すものはないかな…」
「見せてはもらえないんですよね」
「そう。僕のアポロンは僕のもの」
「アポロンって…」
「徹君みたいな恋人がいたらきっとそう思うよ太陽みたいなひとだなって」
「太陽…」
長谷川はヤマトとの会話を思い出していた。
「恋人に聞いてごらん? じゃ。今度こそ、ごちそうさま」
カレーをキレイにたいらげた香曽我部は水を美味しそうに飲み干して席を立った。
「体調には気をつけて、長谷川先生」
「あ、はい。ありがとうございます」
「なぁ貴弘」
「ん? なに」
「俺ってどんな存在」
「なに。またなんかあったの? …大事な恋人だよ。俺の最愛の人」
「そういう 『どんな』 じゃなくて、イメージで言うと? 」
「そんな難しい質問しないでよ。何、次の作品のヒントになるの? 」
「うん。まぁ」
それなら協力せねばと、言葉にするのが苦手な恋人が一生懸命考えてくれる。
「あっ」
「なに? 」
「月」
「月? 」
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