彼のこと

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…遠くでチューニングB♭(べー)の 音がする… 「…合奏、始まりますよ?…」 無駄な抵抗と知りながら 言ってみる。 そんなこと 彼は百も承知だ。 後頭部を髪ごと掴んで 上向きにされた唇に 壮絶な色気を放つ 彼の艶やかな唇が近づく。 「オレが行かなきゃ 始まらないよ?」 唇が触れそうな ギリギリのところで 囁いて 妖しく濡れた瞳に 覗き込まれる。 「もう、行ってほしい?」 問いかけておきながら 唇で答えを塞ぐ。 …そう、彼はconductor 指先ひとつで その場を支配する 絶対的支配者。
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