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 それは不滅である聖地の力を利用し、小さな祭壇の中に封じられたもの。黒くシンプルなバンダナが、そこに横たえられていた。  かつてキラを守り、共に在ってくれた親友。本当のキラの形見の、赤い呪いがそこにあった。  更にそのバンダナには、黒い鳥の翼が付加されていた。 「……――」  キラは黙って、そのバンダナを拾い上げる。迷うことなく銀色の髪の上から巻き付ける。  不器用に着けたバンダナはすぐにずれ落ちる。キラの視界を半分隠し、赤く染め上げていく。  そして新たな力として、キラの背に黒く大きな翼を与えていた。  ――これなら……と。  戦いに生きるキラは、とるべき行動をすぐに悟る。 「これで――……俺も、『地』に行ける」  火の島から飛び立ってしまった者達。その帰りをラピスの亡骸と待つより、それは当たり前の行動だった。  ……一度だけ。ずっと眠っていた石室に戻ると、少年の代わりに横たわるラピスに声をかけた。 「……行ってくる。ラピス………」  少年の躰を維持する力が施された石の台の影響か、ラピスの体はまだ温かかった。しかしそこに命は無いと、誰よりわかっていたキラは――ラピスの望みのために、別れは口にしなかった。 ――ユーオンも大事なこと、早く思い出せるといいね。  娘の昏く赤い夢に心を奪われ、大切な願いを失ったことが、何より少年を追い詰めたこと。そんなことを決して望まなかったラピスが、迷いの果てに出した答がこれだったのだ。  ラピスがそれを望むなら、誰にも止められなかった現実を改めて思う。 ――私のこと……連れていって、くれるの?  赤い天使にとっては、それは自らの終末を招く行動だった。  それでも天使は、キラの代わりに娘の望みを叶えたのだ。 「全部……決着を、つけにいこう」  訪れてしまった昏く赤い夢を思いながら、無意識にキラは呟き……その運命の地へと、古の黒い翼で飛び立ったのだった。 +++++  少年が「火の島」を飛び立つ少し前のことだった。  赤い天使が剣を持って「地」から離れる直前に、剣に届いていた情報は、紛れもない「火の島」側の者達の苦戦だった。  全く――……と。  「金」の札による白の魔法杖の補強を、水華も使い切った。その後は魔たる躯体への負荷も省みずに、聖なる羽を酷使して力を使う。  その姿に神父は心から歪んだ微笑みを見せた。 「俺も君のように、羽が使えればいいのに――……どうしてか俺は、自分の羽が上手く使えないんですよ、ミラ」 「――……は?」  誰がミラだ、と、苦しげながら水華は不服な顔を浮かべる。 「それならどうして俺はここにいるのか――……何故君達と戦っているのか。魔王の片割れ? でも魔王はもういないのに、俺は何をすればいいんですか?」 「ちょっと……アンタ?」  ク――……と。神父が自身の躰を折り曲げるように抱える。 「魔王の力は息子が運べる。俺はもう用済みなんです。なのに今度は黄の宝珠を取り返せ? そのために妹をもう一度殺せと?」  そこで神父が血反吐を吐くと同時に、背からも血飛沫が上がる。  そして神父は僅かに顔を上げて、清らかな笑顔で笑いかけた。 「ああそうだ……俺もそう言えば……宝珠がほしかったんです」 「――!?」 「宝珠があれば……君を本当に、甦らせることができる。君の羽はここにあるから……後は――相応しい躯体を造るだけです」 「……って、アンタ……」
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