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「へぇ……アイツ、復活したんだねぇ?」  飛竜と養父の二重攻撃に、楽しみつつ牽制されていた青闇の青年が、倒された仲間の方へ余裕の呈で顔を向けた。  養父は全く状況がわからず、赤い目で謎の黒い翼を持つキラの姿に戸惑っていた。  倒れた神父の間近では、座り込む水華が不服気にキラを見上げる。 「……ちょっと。ソイツ、あたしの獲物なんだけど」  命の危機を迎えた瞬間など無かったことのように言う。それでもまだ立ち上がれない様子だった。 「ところで何で……アンタはここに来たのよ?」  キラが黙ってバンダナを外し、黒い翼と赤い呪いを失う中、水華は真剣にそれを尋ねる。 「妹を守るためなら……アンタはあたし達の敵になるけど」  少し前に、場には赤い天使も戻っていた。それを視界の端に入れて睨みながら、決してごまかさずに尋ねる。剣を捨て、自らをも捨てたはずの少年が帰って来たその理由を。 「……ラピスが殺された、水華」 「――へ?」  キラはあまりにあっさり、彼らの知る娘の終わりを告げた。 「レイアスも聞こえてるだろ。ピアスがラピスを殺して、俺に剣を返していった……だから俺は――……ピアスを殺す」  キラはいつか、そうしなければいけない時が来ることを知っていた。だから迷いなき青い目で場に佇む。 「俺の妹は……エルフィの魂は、そこにはいない」  そうして冷徹に、赤い鎧の天使を殺す方法だけを考えて、その人形を観つめる。  それはそれは……と。  誰もが言葉を失い、時を止めてしまったような中で、キラの足下で横たわる神父が、何故か痛ましげにキラを見上げた。 「君はまた……君の妹を、失ったんですね」 「……ああ。アンタと同じだ……誰かに奪われた」 「……?」  自ら妹を手にかけたと、長く信じているその「魔」に、キラはただ真実を告げる。 「アンタは裏切者じゃない。アンタが死んだのは、アンタの妹をかばったからだ」 「――…………?」  この天空の島にかつて、多くの悪魔が呼び込まれた時の記憶。  悪魔と戦い命を落とした天の少女は、その直前に、牢獄を出た「魔」の兄と再会を果たしていた。それを少年は、束の間を近い場所で過ごした者の旧い夢で知っていた。 「アンタはそれを、自分が殺したと思い込まされてるだけだ」 「…………?」  ただ空虚な蒼い目の神父。そこには最早、全く生気は残されていない。 「アンタの魂はとっくに死んでる。その身体の主がアンタを真似して、自分をアンタと思い込んで動いてるだけだ」  悪魔の卑劣な罠によって、天の少女の命が失われる直前、「魔」であるはずの兄は妹を抱き締めた。その時に死んだ兄としての心は、死を迎えた以上「魔」ではなかった。  しかし「魔」は妹の胸が己の武器で貫かれる瞬間だけを目にしてしまった。同時の自身の死には気付かないまま。 「何を……い、って……」  それを苦しんだのも「魔」だった。妹の死に囚われた瞬間、自身の死を失ってしまった。そうして今も解放されないまま、ただ力だけを利用され続ける。 「……――……」  それをとっくに知っていた者。虚ろな「魔」を人形とするしかなく、兄として求めた人形使いが神父を見つめる。 「……ルシウの羽が……消えちゃうね」  それでも――と。黒髪の幼子はいつかのように、声色にだけ痛ましさを乗せ、ぬいぐるみをぎゅっと抱きしめて言った。 「……やっと……届いたんだ……」
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