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処刑人の大鎌が、キラの細い首を落とさんと襲いかかる。
天使の赤い鎧にはどんな打撃も術も通じない。それでもキラは己の剣を握り締めた。
「……そっか、エル……」
黒い羽で飛びかかる青い目の人形。その隙を確かにキラは観通す。
「こいつは――……エルを縛る敵だ――」
天性の死神は、彼らの間合いが詰まることをこそ待っていた。
「力」であれば何にも通じる切り札。命の白い光を纏う剣を、確実に外さないために。
目前に迫った赤い鎧。
振りかぶった鎌を大きく外し、キラの真横に叩き付けた相手を、そのまま渾身の力で斬り上げていた。
「――へ?」
「――!!」
未だに拮抗状態にあった養父と青闇の青年も、その結末をしっかりと目にした。
打撃も魔法も通じないはずの赤い鎧が、白い光を纏う剣を受けて、黒い光を放ちながら粉々に砕け散った。
「え……?」
一瞬で、その赤い天使は終わりの時を迎えた。
「何で……『ピアス』……?」
黒髪の幼子は我を忘れ、崩壊した赤い鎧と舞い上がった人形を見つめる。その直後に自身に起きた異変にも気付くこととなる。
「あ――……」
ずっと抱えていたぬいぐるみを、幼子は不意に取落とした。一瞬だけ恐れの顔色を浮かべる。
「兄……さん――……」
赤い天使は少年への攻撃をあえて外し、自ら白の剣光を受けた。その人形が地に叩き付けられると同時に、幼子もそこに倒れ込んでいた。
その人形と幼子が確かに、同調した存在だったことを示すように。
……へー、と。
一瞬の決着に誰もが黙り込んだ中で、至って気楽な声が場に響いた。
「人形使い、敗れるか……人形から自滅されちゃ、確かに世話は無いよね」
「――貴様」
嘲りの顔の青年を、養父の灰色の眼が睨む。
「おかげでオレも解放されたかな。と言っても翼槞――殺されたオレはもう戻らなさそうだけど」
「……」
「ま、こーいうのは、ケンカ両成敗で後腐れなし?」
ふっと後退した青年が、ちらりと倒れた幼子を見やる。
「アイツ、早いところ助けてやりなよ。あの躰、パルシィ君のものにしてあげる方がみんな喜ぶだろ?」
「――何?」
それだけ言い残すと、青年は地に横たわる神父を抱える。陽炎と吸血姫もそれに続く。
「オレはその内――……黄の宝珠は、必ず頂くよ」
人形使いから解放されても、青年の目的は変わらない。
そうして歪んだ顔付きだけを見せ、場を後にしていった。
「って――待ちなさい、あんた!」
「……――」
去っていく陽炎は、水華をつまらなさそうに一瞥しただけだった。
キラはまだ衝撃が抜けない養父に、優先事を催促する。
「……レイアスは早く、まずそいつを連れていけ」
「……」
仕事だろ、とそれだけ言う。養父も厳しい表情で、迅速な処置が必要なはずの黒髪の幼子を抱えた。
「後でゆっくり――話は聞かせてもらうぞ、キラ」
ばさりと、飛竜の羽音を残して、その島を飛び立っていった。
そうして場から、全ての脅威は姿を消したはずだった。
「くっそー……あの女、ヒトが少し大人しくしてたら調子に乗りくさって!」
「……――!」
しかし彼らの運命の真の決着が、そこで待ち受けているとは。
目を覚ました赤い夢に昏い現実を突き付けられると、誰も予想できなかった。
「ミズカ――気を付けろ!!」
「――へ?」
キラは力をほぼ使い切った。ユーオンへと戻るさなかに、直観が残した警告を発する。
その相手は確かに、長い暗闇から目を醒まし……昏く赤い夢を携えた死の人形が、水華の背後に立っていたのだった。
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